低侵襲治療 ステントグラフト

ステントグラフトは人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管で、これを圧縮して細いカテーテルの中に収納したまま使用します。患者さんの脚の付け根を3~4cm切開してカテーテルを動脈内に挿入し、動脈瘤のある部位まで運んだところで収納してあったステントグラフトを放出します。放出されたステントグラフトは、金属バネの力と患者さん自身の血圧によって広がって血管内壁に張り付けられるので、胸部や腹部を切開して直接縫いつけなくても、自然に固定されます。大動脈瘤は切除されず残っているわけですが、瘤はステントグラフトにより蓋をされることになり、瘤内の血流が無くなって次第に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止できれば破裂の危険性がなくなります。このように、ステントグラフトによる治療では切開部を小さくすることができ、患者さんの身体にかかる負担は極めて少なくなります。入院期間が短くなり、歩いたり、食事をとったりすることが早くできるようになるため、他の病気が理由で開腹外科手術を見合わせておられる方やご高齢の方への新しい治療法として広く普及している治療法です。ただし、全ての患者さんが血管内治療に該当するわけではありません。

通常の心臓手術では胸骨を全切開するため胸の真ん中に20cm程度の創がつきますが、低侵襲手術では創が5cm程度と小さく、胸骨を温存するために痛みが少ない、輸血が少ない、治癒が早い、創感染のリスクが低い、運動や車の運転などの制限がない、社会復帰が早い、美容面に優れるといった利点があります。手術後の入院期間は7日から10日程度で、早い方では術後2週間で、平均的には3~4週間で仕事への復帰が可能となっています。
術野が小さいため特殊な手術器具を使用することと視野展開にコツを要しますが、器具の使用に熟練し、コツを熟知していれば通常手術と変わらない手術時間で、同様のクオリティの手術を行うことが可能です。
MICSでは術野からは心臓の一部しか見えないので麻酔科で術中に行う経食道エコーの役割が非常に重要であり、また人工心肺を使用する手術では臨床工学士との連携が重要になります。当院では年間500例以上の開心術を行っているため、麻酔科医、臨床工学士ともに日本でも屈指の経験と技術をもっており、外科医は安心して手術を行うことができます。
胸郭の変形のある方、胸部外傷や胸部や手術の既往のある方、高度な大動脈の石灰化、低左心機能などのハイリスクの方、高齢の方には適していませんので胸骨正中切開による通常の手術をお勧めしています。低侵襲手術が可能な患者様にはできるだけ希望に添えるようにしています。

低侵襲治療 ステントグラフト

ステントグラフト

胸部大動脈ステントグラフト大動脈術後 30日、5年以内の死亡率

ステントグラフト内挿術 開胸手術
PIVOTAL trial
(30日以内)
1.4%
(2/140)
6.4%
(5/94)
(5年以内) 1.4%
(4/140)
11.7%
(11/94)

腹部大動脈ステントグラフト脈術後 30日以内の死亡率

ステントグラフト内挿術、開腹手術共に試行可能な患者群における他施設共同無作為比較試験

ステントグラフト内挿術 開胸手術
EVAR trial 1
(N=1047)
1.7%
(9/531)
4.7%
(24/516)
DREAM trial
(N=345)
1.2%
(2/141)
4.6%
(8/174)

腹部解剖学的適応基準

腹部解剖学的適応基準

腹部解剖学的適応基準

・中枢及び抹消側の留置部ネック内径
 -23-37cm
・中枢ネックの長さ≧2cm
 -左鎖骨下動脈または左総頸動脈のから動脈瘤までの長さ
・抹消側ネックの長さ≧2cm
 -腹腔動脈より動脈瘤までの長さ
・十分にアクセスが可能な、腸骨/大腿動脈を有すること

※真性動脈瘤のみが適応となる

シーリングゾーン

シーリングゾーンの過度な血栓およびカルシウム沈着の評価

ステントグラフトを使用した血管内治療手技の実際

当院ではハイブリッド手術室で、局所麻酔または全身麻酔下に鼠経部を小切開し、露出した総大腿動脈からアプローチし、大動脈瘤の排除を目的としたステントグラフトをモニター上にうつるX線画像を用いて内挿します。

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腹部ステントグラフトの各種デバイス

腹部ステントグラフトの各種デバイス

  • A Zenith Flex (COOK社)
  • B Excluder (GORE社)
  • C Powerlink (COSMOTEC社)
  • D Endurant (Medtronics社)
  • E Aorfix (MEDICOS Hirata社)

胸部ステントグラフトの各種デバイス

胸部ステントグラフトの各種デバイス
  • A VALIANT Captivia
    (Medtronics社)
  • B TX2 Pro-Form
    (COOK社)
  • C C-TAG
    (GORE社)
  • D NAJUTA
    (Kawasumi社)
  • E RELAY
    (Japan Lifeline社)

当科の手術実績

ステントグラフト内挿術に関連した合併症

・漏れの残存(エンドリーク)の残存
人工血管の密着不足や瘤から枝分れしてる細い血管からの血液の逆流などにより、人工血管周囲から血液が漏れて動脈瘤内に血流が残存することがあります。この場合、動脈瘤壁に血圧がかかるため動脈瘤破裂の危険性が残ります。治療法はステントグラフトの追加や血管内治療で対応できる場合もありますが、人工血管置換術を行わなければならない場合もあります。
・ステントグラフトの移動、閉塞や狭窄
ステントグラフトがうまく固定されず血流に押し流されて人工血管が移動したり、あるいは捻れたり、折れたりすることでその内腔が狭くなったりつまったりすることがあります。

エンドリークの特徴

エンドリークの特徴

・ステントグラフトによる動脈壁損傷
カテーテルを動脈瘤のある部位まで運ぶ際に、通過する動脈壁がこすれて傷がつく可能性があります。
・ステントグラフトによる側枝の閉塞
大動脈から分岐している大切な血管をステントグラフトでふさいでしまった場合、その血管によって養われている臓器に傷害が起こることがあります。特に、胸部大動脈から分枝している脊髄を栄養する血管(アダムキュービッツ動脈)をふさいでしまうと両足の麻痺(対麻痺)を生じ、膀胱や直腸の失調を生じることがあります。

ステントグラフト内挿術後に必要なこと

ステントグラフト内挿術を受けた後は定期的に検査を受け、瘤が大きくなっていないか、血液が瘤の中へ漏れていないか(エンドリーク)、ステントグラフトの移動・閉塞・破損などが生じていないかをCT スキャン、レントゲン、エコー検査により観察します。退院後、医師の指示に従って以下の時期に定期検査を受ける必要があります。通常は術後1ヶ月、6ヶ月、12 ヶ月、その後は年1回10年間、CTスキャンを行います。
なお、ステントグラフトにはステント部に金属素材が使用されていますが、3.0T(テスラ)までのMRIは安全に撮影できることが報告されています。

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