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冠動脈バイパス術との20年 第2弾 2018.07.14

その2 ジュウカクエン
当時は、最も恐れる合併症がありました。創部の感染です。患者さんにとって、レジデントにとっても、縦隔炎が恐怖の合併症でした。術後、発熱やCRPに一喜一憂し、創が自潰したりCTで異常があれば、切開排膿、ICUでの洗浄がお決まりのコースでした。子供や赤ちゃんでも開胸洗浄することもあり、冠動脈バイパスに限った合併症ではありませんでしたが、両側内胸動脈を採取すると、さらに、インシュリン治療の糖尿病や透析腎不全などが重なると、ますます創治癒が不良となり、手術方法との因果関係が強い点では、他の手術とは違いがありました。若い患者さんでも生命の危機に直結する深刻なものでした。
今とは違った考え方での治療が当時は標準的でした。創治癒の促進より、菌を制圧することに重点が置かれ、創部を開放し、菌が陰性となるまで、時に鎮静、挿管し、イソジンや酸性水で洗浄しました。時には、感染が原因というより、治療の負担が大きすぎて、状態が悪化してしまうことがあったようです。
その後、創感染の治療は変化しました。抗生剤の使い方が専門化し、洗練されただけでなく、食事をとりながら良い栄養状態で管理して、創洗浄を継続、ある程度のところで、必要とあらば形成外科と連携して創閉鎖を行う手術を行う方針となっています。基本的に人工物を基本的に使用しない冠動脈バイパスの術後では、救命できる確率がかなり高まりました。縦隔炎だけを目の敵にして、必要以上に恐れることは、かえって遠隔成績を犠牲にすることにもなりかねません。

その3 オフポンプ
ある日のカンファレンスで、北村惣一郎先生が言われました。これからは、オフポンプだ、と。我々レジデントは、新しいチャレンジと言われても、実は、変化を恐れているというか、保守的、消極的で、幼かったのかもしれませんが、すぐには気乗りがしませんでした。オフポンプへの移行期は、前下行枝の枝の中隔枝に吻合するからという理由でポンプに乗せた症例もありました。オフポンプできると言いながらも、スタッフの先生にも変化を望まない気持ちがあったのかもしれません。
オフポンプの黎明期から第一助手として、間近で経験できたことは、かけがえのないことでした。Vfや心停止はほとんどありませんでしたが、筋肉内走行のLADを探して、右室から出血が起きたり、心尖部のポジショナーの吸引で血腫が出来たり、オフポンプならではのトラブルを回避したり切り抜ける経験を、助手として共有させてもらうことができました。現在はそういったラーニングカーブを登り切った状態にありますから、今から始めて、オフポンプをマスターすることは、難しい環境となっています。初めから要求されるレベルが高いこと、また、トラブルがあまり起きなくなって、トラブルシューティングが身につかないことなどが、難しくしているかもしれません。気軽に相談できる存在があるとよいでしょう。経験からだけ学ぶのは愚かですが、落とし穴の位置や心臓の限界まで、誰かが教えてくれるわけではありません。教えようとしても、全ては伝わらないでしょう。

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